1360 夜這い決行





昭二は、寝ようとしたが、夜這いの話が頭にこびりつき、久雄の夜這いに屈する明子の顔で、悶々と寝られなかった。
夜中の三時、特に意識した訳ではないが、いつの間にか明子の家の近くをうろついていた。
周りはどの家も真っ暗闇で寝静まっている。
先輩の、早くしないと他の奴らに夜這いをされる。その言葉が頭の中で、エコーとなって止まらない。
とうとう夜這いに移っていたのである。
先輩が伝授していた通り、身をかがめ、こっそり家の裏へまわる。
そして、物音一つしないよう、明子の寝ている裏座の戸ををやっと入れるくらいの隙間で開ける。
島の家の造りは、一番座、二番座があり、必ずと言っていい程その裏に裏座がある。そしてその裏座は又、必ずと言っていいくらい外へ出入り出来る構造になっている。
初めての夜這いで、昭二の胸は高鳴り、破裂しそうである。
しばらく目を暗闇に慣らす為、じっとうずくまっていると、なんと明子は大胆なポーズで寝ている。
その姿を見た瞬間、昭二の頭は真っ赤っか。全ての思考力はすっ飛んでいた。

k1359 注意点


「お前ら甲斐性なしだな、この村から先に夜這いかける奴いないのか」
「久雄! お前度胸ないのか?」
久雄はやってもいいかな。と打診をし乗り気になっている。
親父の行動を注意しろ、力仕事で疲れ果てぐっすり寝込んだ夜をねらへ、この空になった二合ビンに水を入れ、戸走りをたっぷり濡らし音が出ないようにしろ、など久雄に夜這いの注意点をこと細かに伝授しているのである。
昭二は、決して明子はこいつらの夜這いを受け入れないだろうと期待しながらも、もしかして、と不安が次々に膨れ上がっていく。
先輩は、俺が夜這いをかけた時、布団からそっと足元に忍び寄ったが、相手は男だった。
その娘は弟と一緒に寝ていたのだ、その日は失敗に終わった。
そこで、運動会の夜、弟が、ぐっすり寝ている時に、夜這いをかけたら、大成功。
あの娘はよかった、おいしかったぞ、と色々と自慢話をし、煽り立てている。
夜這いの話、明子の話題で、その晩は持ちっ切りだった。

k1358 明子の素振り


日本の南端、この黒島ではその昔、夜這いは日常の出来事で、公然と行われていた。
勿論、夜這いが成立するには、お互いがある程度、好意を持ち、受け入れられていたのである。
昭二は二十歳。隣村の十八歳、明子に、ほのかな想いを寄せていた。
夕陽が真っ赤に沈みかけた頃、隣村との間にある森へ、牛の草刈リに出かけた。
その森へ明子もまた、薪ひろいに来ていた。二人は森の中で、出会わしたのである。
明子の素振りも決して昭二が嫌いと言う訳ではなく、好意を持っているかに見えた。
明子は流行歌を口ずさみ、さも楽しそうに嬉しそうに薪拾いをしていた。
声をかければよかったのだが、昭二は寡黙で気が小さく、そのまま別れてしまったのである。
夜は村の中心にある大きなガジュマルの下で青年達は、さんさんごご集まって酒を酌み交わす。
昭二も先輩達といっしょに飲んでいたが、話題が夜這いの話で盛り上がっていた。
「おい! 中里村の明子はよ今一番いい、熟しているぞ、誰が夜這いをかけるんだ」
他の先輩が「中里村の秀雄がよあの子に気がある、近々間違いなく夜這いをかけるはずだぞ」

k1357 古老の話


誰かが埋めた形跡があり、庭も狭くなるので、そのまま埋めてしまおうかと思ったが、古老の話が気にかかり、生きかえらせることにした。
雨水を溜めるための、丸いタンクの使い古しをその井戸にかぶせ、真ん中に穴を開け、鉄パイプで、空気が通るようにし、子供たちにも危険が、及ばないようにしたのである。
コンクリ二階建て、島1番の立派な民宿が出来上がり、営業を開始すると、古老に言われた通り、見事に繁盛したのである。
開業してから2年、今ではお客を断るのが、大変だという。
中には、日程をずらせても宿泊できない、どういうことだと詰め寄るお客もおり、うれしい悲鳴どころか、本当につらいですよと嘆いている。
観光客の中には、その古井戸を見、それは何ですかと尋ねる人もいるという。
これこれしかじか、と話をすると、この古井戸のおかげで、私たちはこんな立派な民宿に宿泊出来たんだと、手を合わせるお客さんもいるという。
M君は、村の古老の話を聞き捨てにせず、おかげで自分は、言われた通り、大変な幸運に恵まれたと、感謝をしているとのことだ。
古井戸や、お客呼び込む、福の神

k1356 閑古鳥


M君は、20年前、二十歳の時に、この島に遊びに来た。
ちょうどその頃、島の人が民宿をしていたが、閑古鳥が鳴き、つぶれかかった一軒の民宿を自分が借り切るような形で、経営を引き継いだ。
島の人が民宿をやると、どうしても昔からの島料理であったり、結構虫がいるが、それも全然気にしない。
よってなかなか繁盛しないのである。
M君はかれこれ15年間、コツコツとリピーター客を捕まえ、そして嫁さんも確保、子供もでき、いよいよ自分の民宿を建てる計画を実行した。
土地を確保し、整地していると、どうも古井戸らしいものが出てきた。
誰かが、埋めた跡が残っていた。
村の古老に話を聞くと、確かにここには依然、家があって、間違い無くそれは、古い井戸であるとのことだった。
その古老は、あなたは大変幸運な男だ、島では昔から、井戸を埋めると、子孫末代まで、いいことがないと、言われている。
その井戸を見つけたのだから、ちゃんと生きかえらせれば、君には幸運がもたらされるであろう、と言ったのである。